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福岡高等裁判所 昭和50年(う)664号 判決 1976年4月28日

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金一万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由

本件控訴の趣意は、被告人提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

右控訴趣意中事実誤認に基く法令の適用の誤りの論旨について。

所論は要するに、被告人が運転した本件車両は、中古車で購入したものであるが、前所有者から普通自動車であると告げられ、自動車検査証のナンバーも55の記載にして大型自動車のものではなく、交通取締の警察官さえも大型自動車であることに気付かなかつたものであつて、被告人においては全く普通自動車と信じてこれを運転したものである。したがつて、被告人におけるこの錯誤の事実を看過し、無免許運転にあたるとして道路交通法一一八条一項一号、六四条を適用した原判決は事実を誤認し法令の適用を誤つたものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、破棄を免れないというにある。

よつて所論にかんがみ記録を調査し原判決の当否を検討するに、その認定せる事実関係によれば、本件自動車は大型乗用自動車であつて、被告人は大型免許を有しないのに、右自動車を運転したというものである。

これに対し、所論によれば右自動車を普通自動車と誤信して普通免許で運転したのであるから無免許運転としての違法の認識はなかつたというのである。なるほど、被告人が普通が普通免許を有することは証拠に現われ、他面、本件車両の自動車検査証(謄本)によれば、「自動車の種別欄」に「コガタ」と記載され、「自動車登番号又は車両番号」欄は「フクオカ56な7085」と記入されて普通自動車に与えられる5ナンバー(大型自動車の場合は2ナンバー)となつていることが認められる。しかして、これらの事情及び原審及び当審における被告人の供述から窺われる情況によれば、被告人においては本件自動車を普通自動車と思つて、これを運転したというのも認められないことではない。

しかし、ある車両が道路交通法上の普通自動車か又は大型自動車であるかは、法的評価(あてはめ)の問題であつて、これに関する錯誤があり、そのため違法の認識を欠くに至つたとしても右はいわゆる法律の錯誤というべきであつて、刑法三八条三項に明らかなとおり、右錯誤により行為の違法を認識しなかつたとしても故意犯として処罰され得るものであつて、情状により刑の減軽をなすことができるにすぎないものである。

仮に、故意の成立に違法性の意識の可能性が必要だとしても、前掲自動車検査証によれば、本件自動車は定員一四名の乗合自動車であることが認められ、また当審における事実の取調によれば、その型式や諸元又は外形等により一見して普通自動車と異なることが認められるので、被告人において大型自動車たることを認識する可能性がなかつたわけではなく、寧ろ注意していれば大型自動車であつて、普通免許では運転できないことの認識の可能性は十分存したものと認められる。

そうしてみれば、所論の如き錯誤が存したとしても、無免許運転の故意を阻却しないので、これを是認し被告人に対し道路交通法一一八条一項一号、六四条を適用した原判決は正当であつて、所論のように事実を誤認し法令の適用を誤つたものとは認められない。論旨は理由がない。

右控訴趣意中量刑不当の論旨について。

よつて、記録を調査し当審における事実取調の結果を加えて犯情を検討するに、被告人は自動車運転者として自己の使用する本件車両が乗車定員などの点からみて、大型自動車であることを認識する可能性を有していたとはいえ、現実的には普通自動車であると誤信していたものであり、右の錯誤に至る事情、とりわけ車種を小型、ナンバーを56とする自動車検査証が出されており、これは明らかに係官の過誤によるものと考えるほかないが、もしこれが正確に大型となつていたならば、被告人も本件自動車を購入し運転することはなかつたであろうと認められ、これら諸般の事情を考合せると、被告人に対する原判決の刑の量定は重きにすぎ相当でない。論旨は理由がある。

そこで、刑事訴訟法三九七条一項、三八一条に則り原判決を破棄し、同法四〇〇条但書に従つて自判する。

原判決の確定した事実に法律を適用すると、被告人の原判示所為は道路交通法一一八条一項一号、六四条に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その金額の範囲内で被告人を罰金一万円に処し、右の罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金一、〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。

よつて、主文のとおり判決する。

(平田勝雅 川崎貞夫 堀内信明)

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